あなろぐばあちゃんのつぶやき

Yahooブログ育ち、4人の孫のおばあちゃんです。

ヨゴレノニイチャンのこと

昔、幼かった私でも、大人の食事休憩時などに店番程度のお手伝いは出来たし、

算数がまだ出来なくても、煙草くらいなら、大人を呼びに行かなくても、ひとりで売ることができた。

小さな商家には、子供が担う仕事があり、そこには馴染みのお客さんなど、大人達との触れあいがあった。

ヨゴレノニイチャンは、毎日煙草を買っていく、馴染みのお客さんのひとりだった。

だが、ショートピースを吸っていたことは覚えているが、名前は思い出せない。

両親や、近所の人がヨゴレノニイチャンと呼んでいたから、

ヨゴレノニイチャンはヨゴレノニイチャンだったのだ。

そして、ヨゴレが何なのかは、あの日までわからなかった。




その日私は確か、紙芝居を追いかけて、縄張り外の町内で迷子になってしまった。

見慣れない子ども達がそれぞれの家路につき、私はひとりになってしまった。

泣いてはいなかったと思うのだが、きっとソートー挙動不審だったに違いない。

するとそこに通りかかった、ヨゴレノニイチャンが声をかけてくれた。

迷子になったことを伝えると、わざわざ家まで送ってくれた。

地獄で仏、あの時私には、ヨゴレノニイチャンがまるで月光仮面に見えた。




忙しい商家で、子供は結構ほったらかし。

また、祖父に似て鉄砲玉な私ではあったが、母が晩ご飯の支度にかかる時刻となり、

実家ではそろそろ、両親の心配がはじまる頃だった。

「ただいまぁっ!迷子になったばってん、ヨゴレノニイチャンに送ってもろたっ♪」

私はつとめて元気にふるまった。

父は一瞬つまった後、ヨゴレノニイチャンに、

「世話になったなぁ。ありがと、ありがと。」とお礼を言った。

すると、ヨゴレノニイチャンが、哀しい声で言った。

おやっさん。俺、今ぁ、嬢ちゃんにヨゴレて言われたばいっ!」

「・・・。」

私には訳がわからなかった。

すると、父が真顔になり、静かに言った。

「世話んなって、なんばってん。

ヨゴレはヨゴレだろもん。

人にヨゴレて言われよごつなかならぁ、ヨゴレばやむるとよかたい。

・・・あぁたがおっかさんな、、、悔やんどらすぞ・・・。」




その後のことは、あまりよく覚えていない。

だが、ヨゴレが何なのかってことと、ヨゴレにヨゴレと言ってはいけないことを、

ヨゴレノニイチャンが帰った後、多分両親に教わったと思う。

また今思えばこれを境に、両親も、会話の中で、職業などで呼んでいた幾人かのお客さんを、

名前で呼ぶようになったのだと思う。

ホネツギンセンセイ(整形外科医)や、ボンサン(住職)、いく人かはそのままだったけれど。

だけど、当のヨゴレノニイチャンをそれから少しすると、近所で見かけなくなった。





それからどれ位経っただろう。

ある日、鉄砲玉ジイチャンが店先で、ふと思い出したようにつぶやいた。

「あんヨゴレン(の)アンチャンな、パチンコ屋でん見らんねぇて思ぃよったら、

昨日、○○町ん外れで、作業着ば着てトラックから降りよったゾォッ。」

恐らく、父が嬉しい顔をして、何か話しをしたと思うのが、思い出せない。




言わなくてもいいことを言わずにはいられない、時々やっかいな父。

お風呂のたんびに、耳の後ろを洗えと言う口やかましい母。

どちらも、ちょっと苦手な時もあるけれど、私はそんな両親に育てられた。

商家の店先で、人と関わり合いながら生きていこうとする時、

その関わり合いにまごころを込めることが、幸せに生きる術なのだということを、

両親の後ろ姿に教えられたように思う。

また、馴染みのお客さんを失う危険をおかしてでも、誠意を貫くことが、

商人なりの品格なのだと、私は今も信じている。




実家では今も両親が煙草屋を営むものの、大抵の人が自販機で煙草を買って店を通り過ぎて行く。

今商家に生まれたとして、ゲームやお稽古に忙しい子供は、恐らく家の手伝いはしない。

また、幼い子供の一人歩きなど、今の時代はあり得ないこと。

こんな昔話をすれば笑われる。

それでも、昭和の物を懐かしみ礼賛するのも結構だが、物をとっておけないあなろぐはせめて、

昭和の良き気風を、私の生き方で伝えたい。

折しも今年は、平成生まれの成人が誕生する節目の年。

かつて「新人類」と呼ばれた人達がそろそろ孫を持つ時代である。

何より、私の中にある古き良き昭和は、自分の手で大切に温めておきたいから。












ところで・・・、

人はなぜ、手を染めて、足を洗うのでしょう?!

これこそ蛇足なのですが、ご存じの方があれば教えてください。














※ あるお友達、それからロンウルさんの記事を拝見して、この記事を書かせていただきました。
 
  感謝 <(_ _)>