あなろぐばあちゃんのつぶやき

Yahooブログ育ち、4人の孫のおばあちゃんです。

白い杖の老人と幼かった息子のこと

 昔、年度末の道路工事があちこちで行われている、日暮れの早い季節のことです。
 仕事の帰り、乳飲み子の娘を抱き、息子と連れだって街灯のともる道を歩いておりました。

 足下をライトアップされた工事中の場所に差しかかった時、目の前に白い杖をついた汚い身なりのお年寄りが目に入りました。あいにく両手がふさがっているため、気がかりなもののどうすることも出来ません。また、そのいい訳が好都合という思いも一瞬私をかすめたように思います。でも、その方に気付いた瞬間、まだ幼かった息子が急に駆けだし、「おじちゃん。」と声をかけると、小さい手でその方の手を引き、30m程の舗装のはがされたでこぼこ道を誘導したのです。
 そのお年寄りは、工事区間が終わると、「もう大丈夫。ありがとう。」と息子に頭を下げられ、また白い杖をつき歩いて行かれました。閉じられた目の目尻に光ったものを今も忘れられません。
 息子は、心配そうにその方の背中を見つめながら私に言いました。「白い杖の人は目が見えないものねぇ。明るくても、でこぼこは見えないものねぇ。」私は胸がいっぱいになりました。
 息子にとって、障害のある方に手を貸すことは、特別なことではなく、すごく当たり前のことだったのです。
 息子の通う保育園は社会福祉法人の経営で、同じ敷地内の授産場には、様々な障害をかかえる方々が通所しておられました。親はこんなでも、そのような環境の中で幼い子供達は日常生活でその方々とふれあいの機会を得て、成長してくれていたのです。
 息子を育んでくれた環境、周囲の方々への感謝の気持ちは言い尽くせません。

 先日23歳を迎えた、アート系ぐうたら坊主の息子は、恐らく他所の子供さんの数倍は親を困らせてきたと思います。そして、将来の事を考えれば、母親としてはついつい厳しい言葉を吐いてしまいます。でも、そんな日は今も、この出来事を思い出して、「きっと大丈夫」と自分自身に言い聞かせ眠りにつくのです。

 思えば、あの時、息子は一生分に余りある子育ての喜びを与えてくれたのかも知れません。また、3歳児のあの頃のままの、息子のやさしい部分をとても素晴らしいと誇りに思う私はとても幸せなお母さんです。